事務所の隣のロッカールーム。



森野さんはロッカールームの椅子に私を座らせた。



「専務もだけど優花さんも落ち着きな?

今の状態じゃ仕事になんないでしょ?」



私はため息を吐いて



私「….ありがと。

ごめん..」



正直本気で助かった。



あのままじゃ私はきっと止まらない。




..どうしてこんな事になっているんだろう。




私「森野さん、何か知ってる?」



森野さんは静かに首を横に振った。



私「そっか..」



何があったのか分からなければどうしようもない。



私「黙って諦めるしかないんかなぁ..。

何か出来る事ってないんかな..。」



考えろ、何が出来るのか。



..とは言っても情報が無さすぎる。



「あったらどうするの?」



私「出来る事があるならやるよ。何でも。

専務泣いてたやん。

“もっと仕事がしたい”って..。

仕事が嫌になったんじゃない限り、辞めたら絶対後悔する」



それはきっと私にも言える事で



このまま何もしないでただただ「どうなるのか?」と指を咥えて見ているだけだと、私は絶対に後悔する。



「別れたくない」と泣いて縋る気持ちってこんな感じなんだろうか?



1%の望みが少しでもあるのなら、何をしてでも繋ぎたい。



きっと専務が泣かなければ、仕事がしたいと言わなければ私もここまで思わなかった。



だけど専務は泣いたんだ。



仕事がしたいと言いながら..。



森野さんは



「無駄だと思うよ?

専務は何も考えなしで動く人じゃないでしょ。

きっと今まで沢山の事を考えて出した結論なんだよ」



“頼むからこれ以上困らせてくれるな”と言うかのように私に言った。



森野さんは専務から何も聞かないまでも、全部側で見てきた。



だからこそ、専務を思えばの発言だったんだろうけれど



私は知らない。



私は見てない。



私「分かってるけど‥‥

でも私には無理。

私はどうやって我慢して黙ってればいいかが、私には分からん‥」



その日の社内は混乱していた。



白髪さんは

「こんなん注文の個数減らしてもらうわ」

と勝手に言い



パートの人達は

「今日は間に合わんから明日な!!」

勝手に納期を延ばす。



‥‥‥‥待てコラ。



専務がいなくなる。



それがどう言う事なのかを物語っていた。



今まで何かを操作する時には舵を握る専務の存在が絶対だった。



右に行きたくても専務が左だと言えば、左を向くしかない。



舵を取る人間が居なくなるとなれば、こんなにも無法地帯と化すのか?

と。



私も私で余裕がある訳じゃない。



私「ふざけんな!!

個数減らす?

それ、誰が誰の許可取って誰が誰に言うつもり!??」



「俺が担当に電話して来るわ!!

今は自分達で判断してやって行くしかないやろ。」



私「はぁ!??アホか!!!!」



「白髪さん、それやったら“今日発送は無理”ってこっちにも電話して!!」



「分かりました!!」



私「“分かりました”ちゃうやろ!!

お前ぶっ殺すぞ!!!!」



専務が居なくなったら毎日こうなるのか?



今まで出来ていた事を「出来ない」と言って、得意先の人に自分たちのレベルに合わせてもらうのか?



そんなもの、仕事でも何でもないだろ。



白髪さんは私をなだめるように



「あんな、優花ちゃん

これからは自分達で考えてやっていかなあかんねん。

専務に頼ってられへんのやから、ちゃんと前向かないと」



うん。



いやいやいやいや(ヾノ・∀・`)



率先して変な方向に進んでるお前が言うなよ。



「専務がおらんくなるんやったら我々が率先して指揮をとっていかないとあかんねん」



うん。



なら仕事を減らすんじゃなく、こなす為の指揮を取れ!!!!(゚д゚)



ダメだ‥‥。



このままじゃ私が潰れる。



こんな環境で私は仕事は出来ない。



私はもう、無理だ。





「白髪さん。

それ、勝手にすると社長の耳に入って白髪さんがめちゃくちゃ怒られますよ?」



たまたま私に書類を持ってきた森野さんが白髪さんに告げた。